-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第16回連載 【美食浪漫】 タッカルビとチェンバンククス こってりに始まり、さっぱりで締める

具材をプラスしながら進化し続けるタッカルビ

「タッカルビ」()が日本でも知られるようになったのは、なんといっても韓流テレビドラマ『冬のソナタ』の影響ではないでしょうか。
タッカルビは『冬のソナタ』のロケ地になった春川(チュンチョン)が有名で、市内のメインストリートにはずらりと専門店が軒を連ねています。私がタッカルビを初めて食べたのは、ソウルの江南(カンナム)地域にあった、まさに「春川チプ」というお店でした。タッカルビが春川の名物なのは、そのあたりで養鶏が盛んだったからのようです。

美食浪漫 写真 最初に食べたタッカルビは、甘辛く下味をつけた鶏肉のぶつ切りとざく切りにしたキャベツを、真ん中が丸い鉄板になった独特のテーブルで炒めて食べるというものでした。鉄板上の熱気を感じながら、鶏肉の旨みが絡んだキャベツの甘さとシャキシャキした歯ごたえを楽しみ、生ビールが進んだものです。どの席も、会社帰りのサラリーマンで賑わっていました。

このごろはキャベツだけでなく、トッポッキ(細長い棒状の餅)やジャガイモ、ニンジン、タマネギ、さらには麺類まで加えています。以前、カレー粉が入っているのを見て、タッカルビもどんどん進化していると感じたものです。

だいたい韓国の料理は、いろいろなものを気前よく加える方向で進化する傾向があるようです。チゲなども最後には焼き飯にして食べるように、一品で美味しさをまとめてしまおうという考えからなのでしょうか。

野菜とスープの酸味が爽やかなチェンバンククス

もしタッカルビを食べに行ったら、そこには必ず「チェンバンククス」()というメニューがありますから、ぜひこれも注文してみてください。

「チェンバン」はお盆、「ククス」は麺という意味で、お盆ほども大きな平たいお皿で出される甘酸っぱいスープのかかった冷たい麺料理です。麺には、ネギやキャベツ、エゴマ、ニンジン、ナシ、ヨモギ、サンチュ、トレビス(赤紫の苦みのあるキャベツのようなもの)などがサラダのようにトッピングされています。麺は冷麺のようなしこしことした歯ごたえがあり、たっぷりの野菜と爽やかな酸味が口中の鶏肉の脂をさっぱりと流してくれます。韓国風冷やし中華といったところでしょうか。

美食浪漫 写真 私は初めて食べたときから、このチェンバンククスが大好きになりました。
チェンバンククスとの出合いは、尊敬する趙東振(チョドンジン)さんという韓国フォーク界の始祖のような方のコンサートの打ち上げでした。趙さんとお話をさせていただき、とても緊張しているにもかかわらず、目の前に出てきたチェンバンククスがあまりに美味しくて、ついつい手が伸び……。はしたないと思いながらも、その美味しさには我慢がならなかったのでした。

引き締まった鶏肉を存分に味わい、冷たいビールでのどを潤しつつ、最後はチェンバンククスで締める。夏の暑い時期はこれが最高です。

次回更新は5月16日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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