-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第12回連載 【美食浪漫】 ポンデギ 蚕のサナギという驚きの珍味

食糧事情が悪かった時代の貴重なたんぱく源

美食浪漫 写真 エッセイのタイトルは「美食浪漫」ですが、たまには美味しいものだけではなく、珍しい食べものの話題はいかがでしょうか。

今回ご紹介するのは「ポンデギ()」です。
ポンデギは韓国語で「サナギ」という意味ですが、食べものの呼び名でポンデギという場合、蚕(かいこ)のサナギのことをさします。そう、韓国では蚕のサナギを食べるのです。これには私も驚きました。

ポンデギは、見た目が少々怖いのです。体長は2センチほどで、こげ茶色。おなかのところはセミを思わせるジャバラ模様になっています。サナギですから、足がないのも微妙に不気味です。しかも、独特の臭いがあります。
以前は露店や道ばたで、おばさんが大鍋いっぱいのポンデギを七輪で蒸かしてよく売っていました。これを売っていると、臭いですぐわかるほどです。

ポンデギは昔、「3,000万人の栄養食!」というキャッチフレーズがあるほど、国民に人気のある間食だったそうです。戦後、食糧事情が悪かった時代の貴重なたんぱく源だったのでしょう。

女性が好んで食べるおやつのひとつ

韓国では、とくに女性たちが好んで食べるおやつです。
私が初めて食べたのは、1980年代末のことでした。韓国人の女性の友人と道を歩いていると、偶然、ポンデギを売っている露店の前を通りかかったのです。彼女は、当たり前のようにそれを買い求めました。店のおばさんが古新聞を丸めて円錐形の入れものにすると、そこにザラザラっとポンデギを入れて彼女に渡しました。友人は、歩きながらポイとそれを口に運びます。まるでポップコーンでも食べるような感覚です。
松尾芭蕉の第一の門弟とよばれている宝井其角の俳句に、こんな句があります。
「あの声て 蜥蜴(とかげ)くらふか ほとゝきす」(出典:『俳句歳時記 夏』平凡社版)
その姿は、まさに「その顔で トカゲ食うかや ホトトギス」といった風景でした。
「フクミも食べる?」
と聞かれ、ドギマギしました。
「これ怖すぎる!」
ひとつをつまみとって、しげしげと見つめながら言いました。
「ダメダメ。見ちゃダメ!」と、彼女は私の目を手で覆うと、
「はい、口をあけて!」
そう言うなり、私の口にポンデギをひとつ放り込んだのです。
「これから韓国を知ろうとするなら、なんでも自分で確かめてみなければ。たとえポンデギでも!」
私は思いきってポンデギを噛みました。味は、強いて言えば「桜エビかな」と思いました。
洗礼は一度受ければいいものです。あれ以来、私は口にしたことはありません。  

民族の食文化にもの申すつもりはありません。それぞれに尊重すべき固有の文化があるのですから。日本人もイナゴや蜂の子を食べますし、韓国人にとって日本人が馬肉を食べることは脅威です。

でも、個人的に言えば、やはりポンデギは苦手です。見た目がどうしても怖いのです。
黄金虫は可愛くて大好きです。ベランダで弱っているのを見つけると、わざわざ木立に運んで放してやるほどです。でも、ゴキブリは悲鳴を上げるほど怖い。蝶々はきれいで優雅だと思いますが、蛾は毛羽だった触角と厚い羽、太いおなかに鳥肌が立ちます。
どちらも似たようなものなのに、この違いはなんでしょう。自分でも不合理だと思います。

ポンデギは韓国では缶詰として販売されており、コンビニなどにも置いてあるほどポピュラーな商品です。いかに一般的な食べものかがわかります。

次回更新は3月16日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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