-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第3回連載 【美食浪漫】 キムチ第二話 キムチはいつから赤くなったのか?

キムチはいつから赤くなったのか?「唐辛子」は日本がもたらしたものだとか。

キムチといえば「赤くて辛い」というイメージを大部分の方がお持ちだと思います。
また韓国料理といえば、まさに赤くて辛い肉のスープ「ユッケジャン」や、タコを唐辛子味噌で炒めた「ナクチボックム」に代表されるように、唐辛子なくしては成立しない激辛料理のように思われている方もあるかもしれません。

ところで、唐辛子の原産は中南米であり、15世紀の大航海時代にヨーロッパを経て東南アジアに伝わり、韓国へはなんと日本がもたらしたのだという説があります。
朝鮮半島に唐辛子が入ったのは16世紀末期のことと言われています。
豊臣秀吉が朝鮮に出兵した「文禄・慶長の役」の折り、日本の兵士たちがあまりの朝鮮の寒さに、履物のつま先に唐辛子を入れて防寒対策を講じたのが、朝鮮に唐辛子がもたらされた始まりだという通説があるのです。ですから、「韓国料理=唐辛子=赤い」という構図ができあがったのは近世以降のことと言えるでしょう。

朝鮮王朝期も末になると、王様に唐辛子入りのキムチをお出ししたそうですが、テレビドラマの『チャングムの誓い』などに出てくる数々の宮廷料理を見てもわかるように、本来の韓国料理は現代のように唐辛子をふんだんに使ったものはありませんでした。
唐辛子が入る以前の韓国料理は当然のことながら辛くはなかったのです。

現在でも「白キムチ( ペッキムチ)」というものがあります。日本の白菜漬けのようなものです。唐辛子が入るまでは朝鮮半島のキムチはみんなこの白キムチだったというわけですね。

白いキムチは朝鮮北部で好まれ、塩分と唐辛子が多いのは朝鮮南部の特徴です。

キムチも各地方によって特色があります。白キムチは朝鮮半島北部で好まれ、塩分の少ないたっぷりのスープで漬けるようです。
北朝鮮ではキムチの漬け汁を利用した料理があります。
冷麺もその一つ。トンチミという大根のキムチをつけた漬け汁に麺を絡めたもの(冷麺)は、寒い冬に暖かいオンドル部屋で戴くのが妙味であったとか。
私たちは「夏の暑い盛りに冷たい冷麺」を食べるものと思っていますが、本来「冷麺」は寒い冬の料理なのです。

また、私の大好きな北朝鮮料理に「キムチマリパプ」というのがあります。ご飯にキムチの漬け汁をかけてゴマ油を振りかけた、韓国版お茶漬けのようなものですが、これが非常に美味!!
どんなに食欲のない時でもこれならご飯が進むのです。

美食浪漫 写真 写真はソウルにある北朝鮮料理のお店を取材したときの一枚です。
左の大皿には北朝鮮流「腸詰め」である「アバイスンデ」、「饅頭」、「ピンデトク」(緑豆で作るお好み焼き)が綺麗に盛りつけされています。右上は「オンバン」という温かいスープにご飯とピンデトクをトッピングした料理、右下は「白キムチ」です。
韓国でも北朝鮮の料理を供するお店が増えましたが、北朝鮮の料理は盛りつけも味も繊細で、人気を博しています。

ところで、キムチは南下する(気温が温暖になる)ほど保存のため、塩と唐辛子がふんだんに使われます。
朝鮮半島の南海岸のほうになるとカキやエビ・イカなどの海産物が盛り込まれ、濃厚な味になってゆきます。キムチは植物性、動物性両方の栄養を兼ね備えたバランスのよい乳酸発酵食品というわけです。

キムチは各地方の気候・文化、家風によって独自の味付けがあり、それは代々受け継がれたその家の「秘伝」でもあります。
キムチはこうして、母から娘、姑から嫁へと伝えられていく「オモニの味」であり、愛情の連鎖なのですね。

次回更新は10月16日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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