-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第13回連載 【美食浪漫】 テンジャンチゲ 韓国人のおふくろの味

ふつうの朝ご飯はお母さんの真心のこもった食卓の象徴

先日、(財)韓哲文化財団の韓昌祐理事長と対談する機会がございました。韓理事長の多方面にわたる深い見識とユーモアいっぱいのお話に、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。
話題が好きな韓国料理になったとき、韓理事長が故郷の味、オモニ(母)の味として「テンジャンチゲ(味噌チゲ)」()を挙げられたのです。
お話によると、味覚は15歳までになじんだ味に左右されるのだそうで、お母様の作られたテンジャンチゲの思い出を感慨深く語ってくださいました。

私も「結局はテンジャンチゲに帰結する」と感じています。
韓国に通い始めると、誰でもまずはカルビに血道を上げます。たいていの人がこの料理を外さないでしょう。ご多分に漏れず、私も最初はそこから入門しました。
そして韓国料理の多様さを知るにしたがって、その時々にいろいろなものに夢中になります。そして最後は、チョングクチャン(納豆に似た味噌)やテンジャンで作るチゲに行き着くのです。

たとえば、温泉旅行を思い浮かべてください。夕食にはお刺身やてんぷら、お肉料理に茶碗蒸しなど豪華な料理が並びます。でも、翌日の朝ご飯にほっとすることはありませんか。たまにはご馳走もいいのですが、意外に疲れるものなのです。

干物に焼き海苔(のり)、卵焼き、おひたし、お新香、そして熱々のご飯と味噌汁。何の変哲もない、ふつうの朝ご飯。そんな朝食には、毎日でも飽きることのない普遍的な魅力があります。それはお母さんが大切な家族のために整えてくれた、真心のこもった食卓の象徴なのかもしれません。

テンジャンチゲ付き朝定食は食事の基本中の基本

韓国の食堂には、店の外にこんなふうに表示しているところがあります。
「食事 やっています」
この場合の食事は朝ご飯の意味で、たいていは5、6種類の常備菜(煮物やナムル、煮豆、焼き海苔、キムチなど)に焼き魚や卵料理などが加わり、テンジャンチゲとご飯が付きます。
このような定食はペクパン(白飯)ともいわれます。最初、白飯はただの白いご飯のことかと誤解していました。日本でいう朝定食のようなものだと気がつくまでに、ずいぶん時間がかかりました。

美食浪漫 写真 この食事は韓国ではもっとも基本的なもので、日本人からすると品数が多いと感じます。実はミッパンチャンと呼ばれる常備菜が毎回出されるので、品数のわりには手間をかけずに多様なおかずが食卓に上がるのです。

私は韓国で一人旅をするのですが、一人で食事するときは「テンジャンチゲ定食」(5,000W/約400円弱)をよく頼みます。男性が一人で注文する場合も多く、私が一人前を頼んでもお店の人はさほど迷惑そうにはしません。また土地や店の個性が、品数や素材、味付け、味噌などに反映されていて面白いのです。
海辺のほうでは塩辛などがたっぷり出てきたり、内陸では山菜やナムルがたくさん出てきます。
同じテンジャンチゲでも、あっさり味からこってり味までさまざまで、色や香り、出汁(だし)や具材など、店ごとに特色があります。川のあるところでは、珍しいタニシ入りのテンジャンチゲが出てきたこともありました。

味噌は、日本人にもなじみの深い味です。自分好みのテンジャンチゲの味が定まって、こだわりが生まれたとき、韓国の食通ということになるのかもしれません。

次回更新は4月1日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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