-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第10回連載 【美食浪漫】 ソガリメウンタン 貴重かつ美味なる淡水魚の辛いスープ

漢江にも棲息する淡水魚ソガリは江戸時代の文人たちの憧れの的でした。

美食浪漫 写真 年末年始、韓国は記録的な大雪に見舞われたようです。私の友人も金浦(キンポ)空港から車で地方都市へ南下する予定でしたが、途中、雪でどうにも動きがとれなくなり、ほうほうの体でソウルに戻って、結局すぐに日本に帰ってきたそうです。この冬は、旅行先で大変な目にあった方が多かったのではないでしょうか。
反面、友人はソウル市内を流れる大河、漢江(ハンガン)が凍ったのを初めて見たと、とても感激していました。近年は地球温暖化や水質汚染のためにあまり凍ることがありませんでした。昔は凍結した川面で子供たちがスケートをして遊んでいたものです。

ところで漢江には、とても珍しい魚がいます。名前は、ソガリ()。川に棲んでいますが、スズキ目に属し、淡水魚とは思えない肉厚の白身魚です。淡水魚特有の癖のない、とても美味しい魚として知られています。

ソガリは日本名で高麗桂魚(コウライケツギョ)といいます。中国では春の魚として詩歌にも詠(よ)まれています。中国の白磁の壷や絵皿には、青の染め付けで、背びれを立てていきいきと泳ぐ魚の紋様が描かれているものがあります。それがソガリです。
日本でも江戸時代の文人たちはこの魚をことさらありがたがり、剥製(はくせい)を飾って観賞するほどでした。残念ながら、日本には棲息していません。
ところが韓国では、かつて日本の文人たちが憧れた幻の魚、高麗?魚をメウンタン(辛いスープ)にして美味しくいただいています。私はそれを知り、ことあるごとにソガリメウンタンを食べようと、漢江をさかのぼるようになったのです。

春先のソガリをまずはお刺し身でそれからメウンタンにしてスープを味わいます。

美食浪漫 写真 ソウルから漢江沿いを八堂(パルダン)ダムに向かって行く道は、季節を問わず美しいドライブコースです。夏は緑豊かな山を背景に、川岸に色とりどりのパラソルが並んで、人々が川遊びをする光景を見かけたものです。そして点々と「ソガリメウンタン」「メギ(なまず)メウンタン」と書かれた淡水魚料理店の看板を目にするようになります。川岸に縁台を出している店もあり、ロケーションも抜群でした。

ソガリの美味しい季節は産卵前の春先です。まずはお刺身でいただきます。白く透き通って、プリプリとした歯ごたえはなんともいえません。ソガリの身が美味しいのは、肉食の魚だからでしょう。お刺身を楽しんだ後は、アラや余った身をメウンタンにしてもらいます。旨みが出たスープがなんともいえぬ味わいで、ご飯もお酒もすすみます。

貴重かつ美味なるソガリは、きれいな淡水に棲息するため、近頃の漢江では獲れなくなったと聞きました。先日、久しぶりに漢江沿いの道を通ってみると、飲食店やモーテルが建ち並び、すっかりソウル郊外のリゾートとして開発されていました。
冬でもなかなか凍らなくなった漢江では、幻の魚ソガリを見ることができなくなったのでしょうか。だとしたら、残念なことです。

最近ソガリを食べたのは慶尚北道(ケイショウホクドウ)の安東(アンドン)でした。みなさんもどこか水の澄んだ川のある地方に行く機会があったら、ぜひソガリを探して召し上がってみてください。江戸の文人たちの憧れだった高麗?魚をメウンタンにして食べる。きっと素敵な思い出になると思います。

次回更新は2月16日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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