-黒田福美エッセイ- 美食浪漫

第11回連載 【美食浪漫】 サムパプ 包んで食べる韓国食文化の代表的料理

数種類の野菜がたっぷりのおもてなし安くてヘルシーな定番メニューとして大人気です。

「こんど韓国に行きます。韓国料理は何がおすすめですか?」
と聞かれて、答えに詰まることがあります。融通がきかない生真面目な性格のせいか、その方の旅行日程まで考慮しながら、ついバランスのいいメニューを考えてしまうからです。
そんなとき、たいてい私がお勧めするのが「サンパプ()」です。おそらく旅行中は定番のカルビや参鶏湯(サムゲタン)を食べるでしょうから、これなら重なることはありません。

美食浪漫 写真 サムパプのサム()は「包む」、パプ()は「ご飯」という意味。写真のように数種類の野菜や昆布、ご飯やキムチ、塩辛や味噌、肉などが出てきて、それらを好きに包んで食べる料理です。

野菜の種類は、店や季節によって異なります。サンチュ、サニーレタス、エゴマの葉、青唐辛子、チコリ、トレビス、セリ、芽ネギ、ツルムラサキ、ヨモギ、エンダイブ、蒸したキャベツや白菜、かぼちゃの葉、大豆の葉の塩漬けなど実に多彩です。日本では見慣れない野草も出てきます。店によっては15?20種類もの野菜でもてなしてくれます。
これに豚肉バラ肉とタマネギを唐辛子味噌で炒めたチェユクボックム、テンジャンチゲ(味噌チゲ)、数種類のキムチなどの副菜が加わります。一人前8000ウォン(約610円)程度と手頃な値段で、韓国では老若男女を問わず人気のあるヘルシーメニューなのです。

野菜を好みの味にコーディネイトしながら口いっぱいにほおばるのが楽しい食べ方です。

食べ方は、包みやすいサンチュやキャベツなど大きめの葉を手に取り、苦みや辛み、香りの強いアクセントのある野菜を加えます。こうすると味のバランスがいいのです。
そこに好みでご飯やお肉をのせるのですが、このとき欠かせないのが「サムジャン」という味噌です。味噌はそれぞれの店で工夫され、煮干しや唐辛子の粉を加えてコクのある味に仕上げているところもあります。味を引き締め、深い味わいをかもし出してくれるのがサムジャンなのです。

サムパプが楽しいのは、野菜の組み合わせを変えることで、食べるたびに違った味をコーディネイトできることでしょう。
たくさんの具を包んだサムパプを口いっぱいにほおばって、サクッと噛みしめる。肉や味噌、キムチ、新鮮な野菜など、食材それぞれの食感を楽しみつつ、噛むごとに味わいが変化していくのが面白くてたまりません。ちなみに、サムパプはひと口で食べるのが基本です。

日本の食事のマナーでは、口いっぱいにほおばるのは、はしたないとか不作法というイメージがあります。でも韓国ではそうではありません。ほおばるという行為は豊かさや幸せ、福々しさの象徴でもあるからです。
逆に日本人のように、慎ましく少しずつ食べるような仕草は、韓国人には決して上品に映りません。むしろ食べ惜しんでいるようで、ケチな感じがするそうです。

具を包んで食べるサムパプは、韓国の代表的な食文化のひとつです。
核家族化しているソウルの家庭では、サムパプ用の野菜を何種類も揃えるのは大変です。最近では、少人数のためにサムパプ用の野菜を量り売りしてくれるマーケットもあります。すぐに食卓に出せるように整えられた野菜が並び、量や種類を適当に選んでも100グラム単位の値段が計算できる仕組みになっています。こうしたコーナーがあること自体、サムパプの文化が韓国の食生活になくてはならないものだとわかります。

美食浪漫 写真 ずいぶん前ですが、大韓航空やアシアナ航空の機内食にビビンバが登場したとき、機内にごま油の香りが溢れ、驚いたものでした。そして数年前、アシアナ航空の機内食にサンパプが登場したときには、またひとつ、韓国の代表的な料理が楽しめると感激したことを覚えています。

次回更新は3月1日を予定しております。

筆者プロフィール

黒田 福美 (くろだ ふくみ) 女優・エッセイスト
 東京都出身。 映画・テレビドラマなどで俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。テレビコメンテーターや日韓関連のイベントにも数多く出演、講演活動なども活発におこなっている。韓国観光名誉広報大使、日韓交流おまつり2009InTokyo実行委員も務め、著書に『ソウルマイハート』『ソウルの達人 最新版』(講談社)などがある。韓国地方の魅力を紹介したDVD『Ryu・黒田福美が行く韓国四季の旅』も好評発売中。09年は『ビバリーヒルズチワワ(吹き替え)』(Disney)、『ゼロの焦点』(東宝)に出演。
黒田福美ブログ http://ameblo.jp/kuroda-fukumi/
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